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みずうみコレクション(2)カスピ海 [旅のこと]

パキスタンのクエッタという町からバスに乗ってイランに入ったのだが、そのとき同じバスに乗り合わせた日本人ひとり旅のSとテヘランまで同行した。
イラン・イラク戦争中だったことがあって、テヘランまでたどり着いた頃には、彼はストレスがたまり一刻も早くイランを出たがっていた。僕もストレスはたまっていたものの、カスピ海を見てみたいと思っていたので、そこで別れることになった。
最終的には、彼がトルコまでの長距離バスに一日早く乗った。

そして、次の日僕はカスピ海までのローカルバスに乗ることになった。
テヘランからカスピ海までは、何という名前だったかそこそこ高い山脈を越えてゆく。
峠を越えテヘランの向こう側を下り始めると、快晴の乾いた空気から一変して、空気が全体に白っぽく重ぼったくなってきたのを覚えている。
二月か三月の寒い季節だった。
海岸のどのあたりでバスを降りたのか全く覚えていない。小さな村だったような印象があるのは、すべてがもやに包まれていたからかもしれない。

バスを降りると、カスピ海まではすぐだった。
そこは、たまたまそこは、小石と砂とが緩い弧を描き、遠浅から透明で小さなさざ波が寄せては小石と砂に吸い込まれていた。
形のわかるものはそれだけで、すべては深いもやの中だった。
太陽の方向も全く見当がつかないほどに深く閉じ込められた世界だった。
浜を、どちらにということもなくふらふらとしていると、もやの遠くから手こぎボートのきしむ音。そして、櫂から飛び散る水音。そして、話し声が聞こえてきた。漁師だろう年老いた男たちが何かしら言葉を交わしている。もちろん何を言っているのかわからない。
そのなかで、ただ一語わかったのは、
「ハラショゥ!!」
ここはもうそういう文化圏なのだなあ、と思うとずいぶんと遠くに来たものだという感慨があった。
そんな感慨を別にすれば、僕のカスピ海はもやに包まれ、その大きさを想像することもできないままだった。

僕には海がわからない。
日本海を海だと思っていたし、太平洋も海だと思っていた。生まれ育った町の外れには白龍湖という「湖」があって、それは周りを囲まれているので、当たり前のことながら湖だった。
たぶん、小学校の3年か4年のころだったのではないだろうか、世界地図にカスピ海を見つけ、白龍湖よりはだいぶ大きいだろうが、それでも陸に囲まれたこの湖を
「なんでこれが海なんだべ・・・」
と不思議に思いながら地図に見入ったことを覚えている。
ちなみに今の僕には「海」は大きな水たまりかな。











みずうみコレクション(1)前書き [旅のこと]

僕は海から遠く離れた盆地の町で生まれ育った。
生まれて初めて海をみたのは、いつかは覚えていない。
高校生くらいからだろうか、海に対するあこがれは強くなったように思う。それが理由で海岸沿いにある市の大学に行ったわけではない。(入ることができるところが限られていただけだった。その大学でなければ琉球大学を受けるつもりだった。……関係なかった)
その市には港もあったが、千代の浦という浜があって、・・・それもコレクションしているので、いずれ書く機会があるかもしれない。
気がついたら、という言い方で大きく間違いはないと思うのだが、海や湖や川の、そういった水たまりの仲間のようなものを、心の中でコレクションしていた。メモしておいたわけではないし、ただ思い出・印象としてなんとなくコレクションしていただけが。
それをいつからか僕は「ミズウミ・コレクション」と名付けていた。

コレクションの趣味はない。といいながらも海外から帰るときに、その国の使いそびれた小銭を持って帰って何となく集めている。その国の文字で書かれているものは、ほとんどどの国かわからなくなっている。ブータンの神社で古銭を拾って、ガイドのにーさんにどうしよう?と聞いたら、「大丈夫、もらっときな」といわれ、そのままもっている。この一枚も布袋の中に混じってある。
外国の切手を少し。国によっては全くおもしろくないが、チェコスロバキア(当時)の絵柄の素朴さと紙質の悪さ、それに吐きそうになるくらいの質の悪いのり。そんなこともコレクションしていた。
それから、エアラインのシルバーも集めていた。今はどの航空会社もファーストクラスは別にして、フォークとナイフはプラスチック製だとか聞いた。もう二度と乗ることのないエアラインのシルバーもだいぶ持っていたが、以前沖縄に引っ越したときに友人に分けて手元にはほとんどない。誤解ないように付け加えると、勝手に持ってきたのではなく、ちゃんと了解をもらって頂戴してきたものばかりだ。

僕のミズウミ・コレクションは、たとえば埃をかぶったジュークボックスのようなものだ。何かの気まぐれで針を落とすことがあると、ひとりその時代のその世界に帰ってゆくことができるような、僕にとってはそのようなものかもしれない。
久しぶりにコインを入れて……。まだ動けばいいのだが。